浮気・不貞行為の慰謝料を請求する根拠
浮気・不貞行為の慰謝料を請求する根拠は、不法行為に基づく損賠賠償請求です(民法709条)。不法行為に基づく損害賠償が認められるためには、次の要件を満たす必要があります。
- 権利侵害
- 故意・過失
- 損害の発生
法律上の夫婦は、配偶者以外の人と性的関係を持たないという貞操義務を負っています。
浮気・不貞行為は、貞操義務を侵害するもので、配偶者に精神的苦痛という損害を発生させる行為であるため、不法行為に基づく損害賠償が認められるのです。
浮気をした時点で夫婦関係が破綻していたときには、夫婦間の貞操義務は法律上の保護に値する権利とは言えません。
そのため、夫婦関係が破綻していたときには、慰謝料を請求する根拠が欠けることになります。
浮気・不貞行為の慰謝料の金額を決める要素
一般的には、浮気・不貞行為の金額は、200万円くらいなどと言われることがあります。
しかし、慰謝料の金額は、さまざまな要素を考慮して決まるため、簡単に金額を示すことはできません。慰謝料の金額を決める要素には、次のようなものがあります。
- 婚姻期間
- 子どもの有無・年齢
- 夫婦それぞれの収入・職業
- 不貞行為が夫婦関係に与えた影響
- 不貞行為の期間・回数
- 不貞行為に至った経緯
それぞれの要素を踏まえたうえで、慰謝料の相場は50万円〜300万円ほどと大きな開きがあります。
1度の浮気で慰謝料の額が数百万円にもなる事例は、まれであると言えます。
浮気・不貞行為の慰謝料を請求するための証拠
法律上、浮気・不貞行為と言えるためには、肉体関係があったことの証明が必要です。つまり、配偶者が異性とキスやハグをしただけでは、原則として慰謝料を請求することはできません。
不貞行為があったことを証明するために必要な証拠としては、次のようなものがあります。
- 浮気相手の情報
- 浮気相手とのLINE、メール
- 浮気相手との写真、ビデオ
以下、それぞれの証拠について具体的な内容を解説します。
浮気相手の情報
不貞行為そのものの証拠ではないものの、慰謝料を請求するには浮気相手の情報が必要です。
慰謝料の請求は、内容証明や訴訟を利用することになりますが、いずれにしても、相手の氏名と住所がわからなければ手続きを進めることはできません。
浮気相手とのLINE・メール
浮気相手とのLINE、メールは内容次第で不貞行為の証拠となります。
LINE、メールの内容は、単に親密であるということだけでなく、不貞行為があったことを示す内容でなければいけません。
たとえば、配偶者が利用したクレジットカードの明細に、ホテル代金の記載があった場合は有効な証拠となります。
また、LINEでホテルを利用した日時に待ち合わせをしていたり、肉体関係があったことを示すようなやり取りがされていたりした場合には、カードの明細とLINEのやり取りを合わせて不貞行為の証拠とすることができるでしょう。
LINEやメールの文面だけで決定的な証拠となるものは少ないです。
しかし、文面と他の証拠を合わせると有力な証拠となることも多いため、浮気相手とのLINEやメールを入手した場合には、全て証拠として保存しておくことをおすすめします。
浮気相手との写真、ビデオ
浮気相手との写真やビデオを入手できれば、有力な証拠となるケースが多いです。
有力な証拠となるものとしては、性行為の場面は当然のこと、浮気相手と旅行先に滞在している写真や、ラブホテルに出入りしている写真などが挙げられます。
一方、単に異性と顔を寄せ合っている写真やキス・ハグの場面を映した写真は、それだけで肉体関係があったことを示す証拠とはなりません。
浮気・不貞行為の慰謝料を請求できるケースとできないケース
浮気・不貞行為の慰謝料を請求するには、あくまで肉体関係があったことを証明する必要があります。
一般的には、キスやハグを「浮気」と定義することもありますが、法律上は肉体関係がない限りは浮気・不貞行為とはなりません。
配偶者が他の人と肉体関係を持った場合でも、証拠がなければ慰謝料は請求できません。
裁判で不貞行為が認められるだけの証拠を集めるのは簡単な作業とは言えないでしょう。
1つ1つは決定的な証拠とは言えなくとも、肉体関係を「疑わせる」証拠を積み重ねて不貞行為を立証するケースも多いです。
浮気・不貞行為の慰謝料を請求できるかわからない、証拠が揃っているのかを判断できないときには、専門家に相談することを強くおすすめします。
浮気・不貞行為の慰謝料請求の時効
浮気・不貞行為の慰謝料請求には、時効があります。時効の期間は不貞行為を知ってから3年と定義されています。
「不貞行為を知ってから」とは、配偶者が浮気をしたことだけでなく、浮気相手が誰であるかを知ってからカウントが開始されます。
なお、不貞行為や浮気の相手方を知らなくても、不貞行為から20年が経過すると慰謝料請求はできなくなるため、注意が必要です。
浮気・不貞行為の慰謝料請求の進め方
浮気・不貞行為の慰謝料請求は、次の流れで進められるケースが多いです。
- 内容証明郵便の送付
- 交渉
- 訴訟
慰謝料請求は、相手方に内容証明郵便を送付することから始まります。そのため、慰謝料請求をスタートするには、相手方の氏名と住所を知る必要があります。
内容証明郵便を送付したら、条件面について相手方との交渉が開始します。相手によっては、この時点で弁護士に依頼する人もいるでしょう。
交渉で合意できなかったときには、訴訟で決着をつけることになります。訴訟で慰謝料請求が認められるためには何よりも証拠が重要となります。
訴訟で適切な主張と証拠の提出をおこなうには専門的知識が必要となるため、少なくとも訴訟の場面では弁護士に依頼するのが良いでしょう。
関連する質問
ここでは、本稿に関連するいくつかの質問に回答します。
付き合ってるだけなのに浮気されたら慰謝料は請求できますか?
浮気の慰謝料を請求できるのは、貞操義務違反によって配偶者に精神的苦痛を与えるからです。
付き合っているだけの単なる交際関係では、貞操義務は発生しません。浮気をしないことについて、法律上の保護はないのです。
つまり、付き合っているだけの場合には浮気をされても慰謝料は請求できません。
ただし、法律婚の関係になくても、婚約関係や内縁関係にある場合には、浮気についての慰謝料を請求できる可能性があります。
婚約や内縁が成立しているか否かは、法律婚とは異なり客観的に判断することが難しいです。さまざまな要素から客観的にも婚約や内縁の関係が認められれば、浮気の慰謝料も請求できるでしょう。
浮気をしたら慰謝料を払うのはなぜ?
浮気をしたら慰謝料を支払うのは、夫婦間の貞操義務に違反することで相手に精神的苦痛を与えるからです。
そのため、浮気の前から夫婦関係が破綻しているなど、相手が浮気をしても精神的苦痛を感じないような状況であれば、浮気の慰謝料は発生しません。
浮気の慰謝料を払わないとどうなる?
慰謝料の請求を受けているのに支払わずにいると、裁判を起こされる可能性があります。
裁判所からの呼び出しも無視して支払いを拒み続けると、最終的には銀行口座や給与の差し押さえを受ける可能性もあるでしょう。
弁護士からの内容証明や裁判所からの訴状が送られてきたときには、専門家に相談して適切に対処すべきです。
浮気の慰謝料は2人に請求できますか?
浮気の慰謝料は、浮気をした配偶者と浮気相手それぞれに請求できます。ただし、慰謝料を2人に請求する場合でも、二重取りはできません。
たとえば、浮気の慰謝料として200万円の請求権がある場合、浮気をした配偶者から200万円を受け取ると、浮気相手には慰謝料請求ができなくなります。
慰謝料を請求する立場としては、両方に請求しつつ回収しやすい方から慰謝料を受け取ることになります。