プライバシー侵害とは
プライバシー権とは、個人の私生活上の事実や公開されたくない情報を第三者に公開されない権利のことです。
プライバシー権は、憲法で直接規定された権利ではありませんが、憲法13条の幸福追求権を根拠とする憲法上の権利とされています。
何がプライバシー侵害にあたるかは、宴のあと事件(東京地判昭和39年9月28日)の判旨で示された次の基準によって判断されます。
- 私生活上の事実または事実らしく受け取られるおそれがある事柄であること
- 一般的な感受性を基準にして公開して欲しくない内容であること
- 一般の人々にまだ知られていない事柄であること
公開された情報が上記3つの要件を満たすときには、プライバシー侵害が成立します。
具体的には、住所や電話番号などの個人情報、前科、顔写真などを本人に無断で公開すると、プライバシー侵害が成立する可能性があるでしょう。
プライバシーを保護する法律
プライバシーの保護と関連する法律に、個人情報保護法があります。
個人情報保護法は、個人情報(個人を特定できる情報)の取り扱い方法について定めた法律です。
プライバシー権は、情報を公開されない権利だけでなく、自身の情報をコントロールする権利を含むものとされています。
個人情報保護法では、自身の情報をコントロールするプライバシー権を侵害しない範囲での個人情報の利用を認めています。
つまり、個人情報保護法は、自身の情報をコントロールするプライバシー権と個人情報利用との調整を図った法律と言えるでしょう。
実際にプライバシーを侵害されてしまったときは、不法行為(民法709条)を理由として損害賠償請求や出版の差止め請求などができます。
プライバシー侵害について直接規定した刑罰はありませんが、プライバシー情報を公開すると、信用棄損罪や名誉棄損罪などの犯罪が成立する可能性はあります。
プライバシー侵害に関連する重要な判例
プライバシー侵害に関連する重要な判例としては、先ほども説明した宴のあと事件と石に泳ぐ魚事件が挙げられます。
宴のあと事件は、プライバシー侵害の基準を示した判例として重要です。
「宴のあと」は、料亭の女将と外務大臣との恋愛を描いた小説です。「宴のあと」裁判は、小説のモデルにされた外務大臣がプライバシー侵害を訴えたもので、小説を出版する表現の自由とプライバシー権のどちらを優先すべきかが問題となりました。
東京地裁は、表現の自由もプライバシー権を侵害しない限りにおいて保障されるものであるとして、プライバシー侵害の基準を示しました。
石に泳ぐ魚事件(最判平成14年9月24日)も、小説のモデルとなった女性がプライバシー権及び名誉権侵害を理由に損害賠償と小説の出版差し止めを求めた事件です。
最高裁は、小説の出版により公的立場にない被害者のプライバシーが侵害され、重大で回復困難な損害を被らせるおそれがあるとして、出版の差し止めを認めた原審を支持しました。
探偵の調査とプライバシー侵害との関係
探偵が調査するのは、調査対象の個人情報や行動履歴などのプライバシー情報です。そのため、探偵が調査の過程で得た情報を一般に公開することはプライバシー侵害にあたります。
探偵の調査は、探偵業法の規制のもとで正当化されるものです。探偵業法では、探偵業の届出制、依頼者との契約における書面の交付・重要説明義務、秘密保持義務などを規定しており、プライバシー情報がみだりに公開されることないよう規制しています。
探偵の調査は、法律の範囲内で許容されるもので、私的な場所に侵入しての調査などはプライバシー侵害として処罰の対象となります。
探偵の調査によるプライバシー侵害が問題となった事例
探偵の調査とプライバシー侵害については、実際に問題となった事例もあります。
令和6年3月には、探偵が調査対象者の車に無断でGPS発信機を取り付けたとして逮捕されました。
探偵の調査は法律の範囲内で許容されるものですが、GPS発信機を取り付けての調査はプライバシーを侵害するものとして大阪府の迷惑防止条例で禁止されています。
参照:読売新聞オンライン
東京地判平成29年12月20日判決の事件では、探偵がホテルの廊下で調査対象者の客室に入る様子を撮影したことがプライバシー侵害に当たるかが問題となりました。
東京地裁は、「撮影場所,撮影目的,撮影態様,撮影の必要性等を総合考慮し,かつ,当該行為の根拠となる法令がある場合には同法令も踏まえ,被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうか」という判断基準を示したうえで、本件の撮影行為を違法とは言えないと判断しました。
個人が自身のプライバシーを保護するための対策
近年、公的立場にない一般人のプライバシー侵害が問題となっています。ここでは、個人が自身のプライバシーを保護するための対策について解説します。
オンライン上の情報流出に注意する
一般人に対するプライバシー侵害は、オンライン上の情報流出を原因とするケースが多くなっています。
オンライン上はもちろんのこと、パソコンにはできる限り個人情報を保存しないようにして、インターネットを利用するときにはパスワード設定やウィルス対策をしっかりと行ってください。
プライバシーを侵害された場合は厳正に対処する
プライバシーを侵害された場合、民事裁判では損害賠償や投稿の削除などを請求できます。さらに、プライバシー侵害の内容によっては、名誉毀損での刑事告訴も考えられるでしょう。
民事裁判を起こすには、プライバシー侵害の相手を特定する必要があります。匿名のSNSでのプライバシー侵害で相手を特定できていないときは、開示請求で相手を特定することから始めてください。
プライバシーの侵害を放置しておくと被害は拡大していきます。プライバシー侵害を受けたときには、専門家に相談するなどして素早く厳正に対処することが重要です。
関連する質問
ここでは、この記事に関連してよくある質問に回答します。
プライバシーの侵害が認められる基準は?
プライバシーの侵害が認められる基準は、宴のあと事件で示された次の基準で判断されます。
公開された情報が次の3つの要件を満たすときには、プライバシー侵害が成立します。
- 私生活上の事実または事実らしく受け取られるおそれがある事柄であること
- 一般的な感受性を基準にして公開して欲しくない内容であること
- 一般の人々にまだ知られていない事柄であること
プライバシー侵害の身近な例は?
近年は、SNSでのプライバシー侵害が大きな問題となっています。本人に無断で顔写真や住所、電話番号を公開することは、プライバシー侵害に該当します。
SNSの投稿をする際は、プライバシー情報に配慮しなければ意図せずにプライバシーを侵害してしまう可能性もあるため注意が必要です。
他には、本人が知られたくない情報についてのうわさ話を拡散する、フィッシングやスパイウェアで個人情報を盗み取るなどの行為もプライバシー侵害に該当します。
プライバシーの侵害で訴えるには?
プライバシーを侵害されている場合には、民事裁判で損害賠償請求や投稿の削除などを求めることができます。
プライバシー侵害の相手を特定できていないときは、探偵や弁護士などの専門家に相談して、相手を特定することから始めなければなりません。