まとめ
- 探偵は探偵業法により、他の法令にて禁止・制限されている行為はできない。
- 探偵の調査における合法と違法の境目とは、一般の方が違法になるかどうかの境目と同じ。
- 探偵が行う盗聴や盗撮は基本的に合法であって、処罰対象にはならない。
はじめに
探偵による調査は、なにも見境なく行われているわけではありません。
情報を得るためならなんでもする、そんな探偵はただの違法業者です。違法行為を平気で行う探偵に依頼をすると、自身も罪に問われる恐れがあるため注意してください。
とはいえ、以前までは探偵の調査を規制する法律がなかったため、合法と違法の境目を断定するのが難しかったのは事実です。
しかし、現在は「探偵業の業務の適正化に関する法律(以下、「探偵業法」という)」が公布され、合法と違法の境目がはっきりしたといえるでしょう。
そこで今回は、探偵業者の調査における合法と違法の境目について解説していきます。
探偵業法とは?
探偵業法とは、日本における探偵業の適正な運営を確保するために制定された法律です。
この法律は、探偵業務が社会に与える影響を考慮し、探偵業の透明性と信頼性を高めることを目的としてます。
たとえば、探偵業を営むには管轄の公安委員会に業務の届出を行う必要があり、発行された「探偵業届出証明書」は、営業所の見やすい場所に提示しなければなりません。つまり、探偵業届出証明書が見当たらない探偵業者は違法業者の可能性があります。
探偵や興信所への相談・依頼を検討している方は、証明書の有無にぜひ注目してもらいたいです。
探偵業務実施の原則
探偵業法は、探偵が業務を行う上で、他の法令にて禁止・制限されている行為はできないと定めてます。
また、人の生活の平穏を害するなど、個人の権利利益を侵害する行為についても規制されいてます。
わかりやすくいえば、探偵だからといって何かしら特別な権限が付与されているわけではないということです。
たとえば、医師法は医師免許を持たない者の医療行為を禁じています。医師免許がなければ医療行為は許されていないのです。
一方で、探偵には、「探偵だから許される」といった行為は基本的になく、一般人となんら変わらぬ範囲で適正な業務を行わなければなりません。
つまり、探偵業者の調査における合法と違法の境目とは、一般の方が違法になるかどうかの境目と同じということです。
調査種別|違法と合法の境目
では、探偵が行う具体的な5つの調査に着目し、違法と合法の境目について解説しましょう。
基本的には、後述する違法行為に該当しなければ合法調査の範囲内ということになります。
- 聞き込み調査
- 張り込み調査
- 尾行調査
- 盗聴・盗撮調査
- その他の調査
聞き込み調査における違法行為
探偵が行う聞き込み調査とは、特定の情報や事実を明らかにするために、関連する人物や目撃者などから直接情報収集する調査方法ですが、以下の法的規制があります。
・照合詐称や標章等窃用の罪(軽犯罪法1条15号)
探偵が警察官などを装い、誤解されるような制服、もしくはバッジ等を用いて聞き込み調査を行うことは罪に該当します。
・信用毀損罪(刑法233条)
探偵が聞き込み調査を行った結果、対象者に関する虚偽の噂が広まり、対象者の信用が損なわれる場合、信用毀損罪に該当します。
・業務妨害罪(刑法233条)
探偵による聞き込みが原因で、法人に関する虚偽の噂が広まり、その業務が妨害される場合、業務妨害罪が成立します。
張り込み調査における違法行為
探偵が行う張り込み調査は、対象者の行動を把握する際に用いる調査方法ですが、以下の行為は違法行為に該当します。
・住居侵入罪(刑法130条)
探偵が他人の住居や建造物、敷地内に許可なく侵入する行為は住居侵入罪に該当します。
たとえば、マンションなどの敷地内に住民でないのに無断で入ることはできありません。
・不退去罪(刑法130条)
探偵が居住者以外にも公開されている建造物に侵入した後、管理人や住民に退去を求められても居座り続けた場合は、不退去罪に当たります。
・潜伏の罪(軽犯罪法1条1号)
探偵が人の住んでいない家や建物に侵入して監視する行為は、潜伏の罪に該当します。
・窃視の罪(軽犯罪法1条23号)
探偵が邸宅内を覗き見する行為は窃視の罪に当たります。たとえば、不倫現場の可能性があるからといって、浴場やトイレなどプライバシーが高い場所を覗くと、より重い罪で処罰されます。
尾行調査における違法行為
探偵が行う尾行調査は、対象者の行動を調査する際に用いる調査方法ですが、以下の行為は違法行為に該当します。
・追随等の罪(軽犯罪法1条28号)
探偵が対象者に気付かれているにも関わらず尾行を続けると、追随等の罪が成立します。
・ストーカー行為(ストーカー規制法違反)
探偵による尾行調査がストーカー行為に該当するのではないか、という疑問を持つ方は多です。
しかし、ストーカー規制法違反とされるのは、相手に恋愛や怨念といった感情が伴っている場合に限定されます。探偵が行う尾行調査はあくまで業務であるため、ストーカー規制法に該当することはありません。
ただし、探偵の調査結果が犯罪に使われるようなケースでは、ストーカー規制法違反の幇助に問われるケースがあります。
そのため探偵には依頼者との契約時、調査結果を犯罪行為などに用いない旨を示す書面の交付が義務付けられてます。
盗聴・盗撮調査における違法行為
探偵は調査対象の会話内容を確認するため、盗聴器を仕込むことがあります。
また、調査対象の浮気現場を撮影することで証拠を掴むこともあります。これらは、「盗聴・盗撮」に該当するのではないかというのは、もっともな疑問です。
しかし、探偵が行う盗聴や盗撮は、基本的に合法であって、処罰対象にはなりません。
たとえば、妻から依頼された不倫調査の際、車に盗聴器を仕掛けるとします。この場合、設置する車が依頼者である妻の所有物であれば、違法にはならないのです。
また、現在の日本には、「盗聴・盗撮」を取り締まる法律は存在しません。よって、盗聴・盗撮が違法となるのは、基本的に以下に該当するケースです。
・住居侵入罪(刑法130条)
第三者の私有地、他人の車(たとえば不倫相手の所有している車)などに許可なく侵入し、盗聴・盗撮する行為は住居侵入罪に該当します。
・器物破損罪(刑法261条)
第三者の私物に許可なく、カメラ穴を空けたり、コンセントを分解したりして、盗聴・盗撮する行為は器物損壊罪に該当します。
・有線電気通信法違反(有線電気通信法14条)
有線電話(いわゆる固定電話)の回線に、盗聴器を仕掛ける行為は禁止されてます。
その他の調査における違法行為
その他にも、探偵は戸籍調査のために戸籍簿や住民票を勝手に取得したりはできないし、資産調査のために債務状況を確認したりといったことも認められていありません。
このように、探偵が行う調査は様々な法規制を守った上で成り立っているのです。
各調査における違法行為例
では、各調査における違法行為について、より具体的な例を用いて解説しましょう。
聞き込み調査における違法行為例
調査対象者とその浮気相手がラブホテルに入り、調査員がラブホテル受付に調査対象者が利用している部屋を聞いた場合、信用毀損罪に該当する恐れがあります。
聞き込みをするのであれば、自身の身分を明かす必要があり、探偵であることを明かせば誰でも容易に浮気調査なのだと想像できるでしょう。
となれば、対象者の信用が損なわれることにつながりかねません。また、聞き込みの際、探偵であるとは明かさず、警察官を装って受付から情報を引き出そうとした場合は、照合詐称や標章等窃用の罪に問われる恐れがあります。
張り込み調査における違法行為例
調査対象者とその浮気相手がレストランに入り、調査員が同じレストランの中に入って会話を聞いた場合、誰にでも公開されているレストランに入っただけに過ぎないため、違法行為になることはありません。
しかし、隣の席を無理やり確保するなど、レストランのオーナーなどに調査を勘付かれ、他のお客さんの迷惑だから出ていってほしいと言われてしまえば従わねばなりません。
もし従わなかった場合は、不退去罪に該当することになります。
尾行調査における違法行為例
調査対象者とその浮気相手がラブホテルに入り、調査員が尾行継続のためラブホテルの中に入った場合、調査対象者に気付かれる可能性があります。
行き過ぎた尾行は、追随等の罪に該当する恐れがあるのです。
盗聴・盗撮調査における違法行為例
調査対象者とその浮気相手の会話を確認するため、調査対象者の私物に盗聴器をしかける行為は、器物破損罪に該当する恐れがあります。
また、調査対象者と浮気相手の行先があらかじめわかっている場合であっても、移動先に無断で侵入し、盗聴器を設置する行為は住居侵入罪に該当する恐れがあります。