探偵の調査は法律の範囲内で許可されている
探偵業は、調査のためならば何をしても良いわけではありません。探偵の調査は、法律の範囲内で許可されており、法律に違反するような調査は許されていません。
探偵の調査に関わる法律としては、次のものが挙げられます。
- 探偵業の業務の適正化に関する法律(探偵業法)
- 個人情報保護法
- 興信所業者が講ずべき個人情報保護のための措置の特例に関する指針
探偵業は、依頼者や調査対象の個人情報を取り扱うため「個人情報取扱事業者」に該当します。
個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱う目的を特定しなければなりません(個人情報保護法17条1項)。
探偵は、探偵業務を遂行するという目的に限り、個人情報の取り扱いが認められていると言えます(探偵業法2条)。
個人情報取扱事業者である探偵は、依頼者に個人情報を提供するにあたって、違法、不当な行為を助長することがないよう注意しなければいけません(個人情報保護法19条)。
たとえば、個人情報を取得した依頼者が相手方に暴力を振るったり、ストーカー行為をしたりするおそれがあるときには、依頼を受けてはならなりません。
(利用目的の特定)第17条 個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない。 (不適正な利用の禁止)第19条 個人情報取扱事業者は、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならない。 引用:個人情報の保護に関する法律|e-Gov法令検索 |
探偵はどこまでの情報を調べられるのか
探偵は、依頼を受けて、「特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るもの」(探偵業法2条1項)を収集します。
探偵が収集する情報には、氏名、住所などの個人情報、特定の人の行動記録、企業の信用情報など、あらゆる情報が含まれます。
探偵が情報を収集するために行う調査には、「探偵業務に該当する調査」と「探偵業務に該当しない調査」の2通りがあります。
探偵業務に該当する調査 | 探偵業務に該当しない調査 |
尾行・張り込みによる素行調査現地での聞き込み調査所在確認や捜索活動などの実地調査 | 電話での取材による調査資産や金銭状況などの信用調査資料データを利用しての調査 |
探偵は、複数の調査方法を組み合わせることで、あらゆる情報を取得できるのです。
探偵が調べられない情報は?
探偵が調べられる情報の範囲には、法律による制限があります。
探偵は、違法行為につながるものや、人の生活の平穏を害することになるような調査はできません(探偵業法6条)。
探偵が調べられない情報の具体例としては、次のものが挙げられます。
- ストーカー、DV、社会的差別につながる情報
- 銀行口座の残高情報
- 犯罪歴
また、探偵は弁護士や行政書士などと異なり、職務上請求による戸籍謄本や住民票の取得はできません。
調査の種類と法的根拠
ここでは、探偵の具体的な調査内容と法的根拠を解説します。
ストーカー調査
探偵が探偵業務で得た個人情報を利用する際は、原則として調査対象者に利用目的を通知しなければなりません(個人情報保護法21条1項)。
ただし、調査対象者に利用目的を通知することで、調査対象者や依頼者の生命、身体、財産などを害するおそれがあるときには、通知の必要はないとされています(同法4項1号)。
興信所業者が講ずべき個人情報保護のための措置の特例に関する指針(以下、「指針」と言う。)では、調査対象者への通知をしなくても良い場合を具体化しています。
そこでは、「依頼者が犯罪その他の不正な行為による被害を受けている場合であって、当該被害を防止するために必要な事項について調査を行うとき」との規定があります。
依頼者がストーカー被害を受けているというのは、「依頼者が犯罪その他の不正な行為による被害を受けている場合」と言えるため、調査対象者(ストーカー)への通知なしで個人情報を収集できるのです。
なお、逆に依頼者が入手した個人情報でストーカー行為に及ぶ危険性があるときには、違法な行為を助長するものとして探偵業務を行うことは許されません。
浮気調査
配偶者の浮気調査は、指針で対象者への通知をしなくても良い場合として規定されています。
「対象者が依頼者の配偶者である場合であって、当該対象者について民法第7 5 2 条の義務その他の法令上の義務の履行を確保するために必要な事項について調査を行うとき」に該当します。
探偵は、対象者への通知なしで、張り込み、尾行、聞き込みなどの調査を行い、浮気の証拠を取得できます。
ただし、調査の際に住居に侵入して盗聴器をしかけるなど、法律に違反する行為を行うことは許されません。
婚姻のための素行調査
婚姻のために相手方の素行調査を行うことは、指針で対象者への通知をしなくても良い場合として規定されています。
「対象者が依頼者の法律行為の相手方となろうとしている者である場合であって、当該法律行為をするかどうかの判断に必要な事項について調査を行うとき」に該当します。
ただし、素行調査の内容は、探偵業法や個人情報保護法などの法律による制限を受けます。
たとえば、尾行や聞き込みによって身元情報や結婚情報を取得することはできるものの、戸籍謄本や住民票の取得や、口座残高の情報を取得することはできません。
企業調査
取引を進めるために相手方の企業調査を行うことは、指針で対象者への通知をしなくても良い場合として規定されています。
「対象者が依頼者の法律行為の相手方となろうとしている者である場合であって、当該法律行為をするかどうかの判断に必要な事項について調査を行うとき」に該当します。
探偵による企業調査では、相手方の反社チェックや、役員や社員の素行調査、会社の信用調査などによって、取引に必要な情報を取得できるのです。